第11章 イカれた世界
山奥にひっそりと建っている古民家は、普段なら人の気配なんて無いのだろう。
けど今夜は、古民家の奥からハッキリと二つの熱を感じる。
不思議なほどに心は凪いでいた。
ふと、椿に浮気がバレた時の彼女を思い出した。
眉一つ動かさないで一瞥だけした椿。
あの時の椿がどんな気持ちだったのか、分かった気がした。
近付けばハッキリしていく人の気配。
息遣い、着擦れの音、動きに合わせて軋むベッドの音。
悟は躊躇うことなくその扉を開けた。
その瞬間、部屋の中の熱が悟を覆った。
悟の登場に固まる二つの重なった影。
椿の手が、直哉から離れてベッドに落ちた。
「……なんや。もうちょい遅かったらよかったのに。」
「…何、いいところだった感出してんだよ。クズ。」
ベッドの上から悟を凝視している椿の顔は、涙でグチャグチャだった。
椿の目が悟を見つけると、彼女は声を出さずに唇だけ動かした。
ー助けて。
この狂った世界から、私を助けて。