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緋色の誓い

第7章 新たな道標



確かに膝はついた。

だが最後まで立とうとした。

剣心は静かに言葉を重ねる。

「昔のお主なら、あの場面で無理に前へ出ていた」

斗亜は何も言えない。

「今日は違った」

風がふわりと吹き抜ける。

月明かりが二人の影を揺らした。

「受け止めた」

剣心は穏やかに微笑む。

「それが守る剣でござる」

斗亜は黙ったまま夜空を見上げる。

頭の中では、今日一日の立ち合いが何度も繰り返されていた。

剣心との稽古。

弥彦との打ち合い。

自分の踏み込み。

そして受け止めた一撃。

「でも…」

掠れた声が漏れる。

「遅ぇ」

剣心は小さく笑った。

「速さは戻る」

斗亜が振り向く。

「戻るのか?」

剣心はゆっくり首を振った。

「勝手に戻るわけではない」

月を見上げたまま、静かに続ける。

「これから育てるのでござる」

その言葉が胸の奥へ静かに染み込んでいく。

斗亜は右手を見る。

サラシの巻かれた掌。

ついさっきまで役に立たないと思っていた手。

「俺…」

小さく呟く。

「まだ戦えるかな?」

まるで幼い子どもが確かめるような問いだった。

剣心は迷わず頷く。

「無論でござる」

一切の迷いがない。

真っ直ぐな答えだった。

その一言を聞いた途端、斗亜の肩から力が抜けた。

柱へ背中を預け、大きく息を吐く。

月を見上げると、光が少しだけ滲んで見えた。

「腹減った…」

ぽつりと漏らす。

剣心がくすりと笑う。

「ようやくいつもの斗亜でござるな」

立ち上がりながら言う。

「薫殿が夜食を残してくれておる」

斗亜が顔を上げる。

「ほんとか?」

「本当でござる」

その返事に、斗亜の口元がようやく少しだけ緩んだ。

ゆっくり立ち上がる。

足はまだ重い。

けれど、その重さは昼間とは違っていた。

前へ進むための重さだった。

縁側を離れる前に、一度だけ庭を振り返る。

月明かり。

揺れる木々。

夜風。

そして自分の右手。

そっと握り締める。

もう震えてはいなかった。

布団へ入っても、すぐには眠れなかった。

静まり返った道場。

どこかで柱が小さく軋む音。
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