第7章 新たな道標
「何でだよ…」
声が掠れる。
「何で動かねぇんだよ…!」
拳で板間を叩く。
乾いた音だけが返ってくる。
「このままじゃ…」
息を吸う。
吐けない。
喉が震える。
「守れねぇだろ…」
やっと絞り出した声は、消え入りそうだった。
道場が静まり返る。
月明かりだけが二人を照らしている。
剣心はようやく竹刀を脇へ置いた。
ゆっくり斗亜の前へ歩み寄る。
膝をつく。
同じ高さまで目線を下ろした。
「斗亜」
返事はない。
俯いたまま肩だけが震えている。
剣心は静かに言った。
「お主の剣は鈍ってなどおらぬ」
斗亜の肩がぴくりと震える。
「なら何でだよ…」
「迷っているのでござる」
「違う」
「守れぬ未来ばかり見ている」
斗亜の呼吸が止まる。
図星だった。
「うるせぇ…」
絞り出すような声。
「俺は…」
言葉にならない。
拳だけが震える。
「俺はまだ…戦える…」
その声は、強者のものではなかった。
助けを求める子どものようだった。
剣心は静かに頷く。
「知っている」
ただ、それだけ。
否定もしない。
慰めもしない。
その一言だけが、斗亜の張り詰めていた糸を切った。
全身から力が抜ける。
そのまま板間へ倒れ込む。
荒い呼吸だけが静かな道場に響く。
剣心は何も言わず、ただ隣に座り続けた。
月明かりだけが、二人の影を静かに照らしていた。
夜風が、火照った体を静かに撫でていく。
縁側には斗亜と剣心が並んで腰を下ろしていた。
道場の灯はすでに落ち、庭には淡い月明かりだけが広がっている。
草むらでは虫たちが絶え間なく鳴き、静かな夜に小さな音を重ねていた。
斗亜は柱へ背中を預けたまま、じっと庭を見つめている。
呼吸は落ち着き始めていたが、まだ完全ではない。
右手には新しく巻き直されたサラシ。
さっき剣心が黙って巻き替えてくれたものだった。
締め付けすぎず、けれど緩まない。
竹刀を握った時に動きを妨げない絶妙な加減。
その手際に、斗亜は何も言えなかった。