第11章 少しずつの勇気
「……ねえ」
「どうしたの?」
見上げてくるシシィに反応して、彼はいつものように目線を合わせようとした。
「さっきの、話ね、もし、その……彼氏面になるかもってやつ、ぜんぜん気にしないで言ったらどうなるの、かなって」
「えっ…」
彼は、微妙に屈んだまま固まった。
「あっ一応ね? 面白そう、だから……?」
「お、おもしろ」
そう言われてノルバートはうろうろと目を泳がせ、やっと絞り出すように口を開いた。
「すごく、その」
ええっと、と顔に手をやる仕草。
「に、にあって、て…」
「かわいい、と、思いました……」
小さいけれど、今度はちゃんと聞こえた。
「あ、あり、がと」
シシィも小さな声で返事をした。
さっき一瞬だけ戻ったはずのいつもの空気は、もうどこかへ吹き飛び、しばらくは戻りそうになかった。
◇◇◇
今日……言った。かわいいって。シシィ本人に。直接。
思うだけなら毎日のように思っていた。
時々、主に課題の締切がない時に爪がきらきらしている日があるのに気づいていた。それから、淡色のワンピースの時はきまって、白い花のイヤリングを選んでいるのも知っていた。
でも、今回みたいに口にしたのは初めてだった。
ありがと、って返してくれた。
胸の前で小さな手が握られていた。
もし。
あれで、引かれていないなら……これからは、もっとちゃんと伝えてしまってもいいんだろうか。
そんなことを考えながら、ノルバートは灯りのついた寮の玄関口を潜り、いつものように郵便受けを確認した。
しっかりした材質の封筒が手に触れる。
「所属魔法使いの皆様へ」
その場で封を開けると、中身は案件の募集要項だった。
「……」
一通り目を通し、ノルバートはもう一度丁寧に手紙を折りたたんだ。
……そうだ。
何かしら動く前に、どうしてもあの子に伝えるべきことがある。
あの時喫茶店で先延ばしにした、続きの話。自分がこの国に住むと決めた理由。
順番を、間違えてはいけない。