第5章 誤読と美術館
ミルクティーをかき混ぜながら、シシィがふと言った。
「こんな遅くまで誰かと遊べるの、自由の味〜! って感じがするな〜」
ノルバートはちょっと驚いた様子だった。
「遅い……? って言っても五時回ってないけど……あ、でも早めに学校のカフェに移動するのはありだよ?」
「うーん、それももったいない……てか、変な人って別に学校にも出るし……」
彼は少し笑った。
「まあ……それもそうか。一人ってわけではないしね」
あの事件以来、校内はこまめに見廻りが行われるようにはなったものの、学内展や図書館、カフェは一般解放なのだ。
「ノルバートは門限とかあった? 私は暗くなる前に家に着けって言われてたよ」
シシィは深い意味もなく聞いた。
彼は答えた。
「僕は、……そうだね、そもそもあまり、一人歩き自体しなかったかな」
「え……?」
「ええと……かなり大きい家だから、色々あって」
「おっきい……家?」
そう、と言ってノルバートは続ける。
「……実家、貴族なんだ」
シシィは目をまんまるくした。
「きぞく?!」
でも、ノルバートの仕草や話し方は確かにいつも上品で、そう言われても違和感はない。もしかして、いいところの子なのかな、とは前からも感じてはいた。
「そっか、一人で外出させてもらえないってそういう……逆に、よくこんな海外の大学まで……」
その言葉に、彼はフォークを少し止めた。
何かを迷っているような間。
しまった。これ、ぐいぐい聞きすぎたかも。
シシィは慌てる。
「ごめん、こんな、気軽に……!」
「いや、全然いいんだ。ただ、今日の、楽しかった終わりに伝える内容としてはかなり……でも、どこかで君には話しておきたいとも思ってた」
ノルバートの眼差しはいつになくまっすぐだった。
「わ、私は別にいい……よ、いや、無理にってことじゃなくて……でも気にはなる、かも」
聞きたい。知りたい。それは本当だった。
「……ありがとう、じゃあ、お言葉に甘えて」
そう言って、ノルバートは少しずつ語り始めた。
「……実はね。僕、家にはもう帰らないつもりなんだ」