第5章 誤読と美術館
穏やかに振る舞う裏で。
脳は完全に焼け、昨日、シシィに言われた本気の「ありがと」の反芻が止まらないまま、ノルバートは登校していた。
だめだだめだ。こんな流れで舞い上がるのは。
嬉しさの燃料にするような出来事じゃない。
彼はぐっと押さえつけるように目を瞑る。
シシィがまだ、昨日のことで怖がっているのなら……
やるべきことはシンプルだ。
◇◇◇
「あ、外出る?」
「へっ」
「ちょっと待って……じゃあ、行こうか」
購買に行くだけでも、ノルバートがついてくる。
シシィはずーっと大変だ。
そうやって何度目かに二人になった時。
シシィはどうにかいつも通りの声を出そうと頑張りながら口を開いた。
「……き、昨日っありがとっっ」
声の勢いと唐突なお礼にノルバートの目が少し丸くなった気がするが、もう一気にしゃべるしかない。
「あのね、課題でどこか美術館行かなくちゃで、つ、ついてきてほしくて。行くとこ、ノルバートの行きたいとこある!?」
言葉選びまちがったーーーー!!! やっちゃった、この言い方じゃ単に一人で行くのが不安だからみたい……!
絶対これ、「あっやっぱりまだ一人行動は怖いんだ」、って思われてるやつじゃん!!!
シシィが思った時にはもう遅かった。
「うん、もちろん行こう」
あっ、やっぱりまだ一人行動は怖いんだ、そうだよね。
でも、頼ってくれてる……!!!
好きな子に誘われた。その事実を噛み締めつつ、彼は一字一句を正しく誤読した。