第3章 友達
魔法がつく、つかないに限らずだが、絵画専攻というものはどうしたって荷物の多くなる日がある。スケッチ課題で画材を外で使ったあとなんかは特にだ。
画板や絵の具の重さにのそのそ歩いているシシィに、おはよう、と声をかけながらノルバートが合流する。
「今日の、すごい量だね。ひとつ預かろうか?」
「えっでも……悪いよ、校舎遠いし」
「なら、大階段上がる時だけおせっかいしようかな」
彼はそう言いながらすでに、片手ではシシィのリュックを底から支えてくれている。
「あ……ありがと」
シシィがお礼を言うと、彼は気にしないでと微笑んだ。
ほんと、そういうとこ……。
ノルバートは遠い国からの留学生で、すぐ閉店して、声も控えめで。あとは、美術や本が好きで、よく犬の小物を集めている。真面目な割に、案外くだらないことでも笑う。
男の子とこんなに仲良くするのは小さい頃以来だったけど、ぜんぜん変な空気にもならない。友達になれて嬉しい。それは本当に確かだ。
でも。
シシィの中で、それだけですんでいた期間は実際、わずかだった。
届かない棚の上のものを、当たり前みたいにとってくれる。
調べ物のために本を何冊も抱えて歩いてたら、上半分を引き取ってゆく。
シシィが知らない人に何か伝えようとして、緊張で空回りした時はそっと補足を添えてくれる。
そう、困ったことに。結構な頻度で彼は、初対面で助けてくれたあの男の子と、地続きの顔を見せてくるのだ。
あ、また。
彼が開けてくれた重たい扉を潜りながらシシィは思う。
この人、ほんっっとにずるいよ、いっつも……!
自分は陰気なほうです、オタクですって顔してくる割にやることがこれなの。
わかってんのかな……いや、わかってないからやるんだろうな。
言わない。けど、シシィはしょっちゅう思う。
シシィの視線に気づいたのか、どうしたの? と彼が聞く。
その声の柔らかさに、今日も今日とてつい嬉しくなってしまった。
ふつうに友達、なのに。シシィの胸の高鳴りは日に日に忙しさを増すばかりだ。