第26章 彼女を知る者
ルドガーの森の小屋に置いてくるのは、側近の仕事だ。
指示通りにあなたの身を清め、防寒着に包んで出発準備をした。
「閣下。本当に裸でよいのですか。風邪をひかぬよう魔法はかけましたが」
「それでいい。あやつの鼻は鋭いぞ。違和感をもたせてはならぬ」
ネメニアは最後に、デシエが抱えるあなたの髪を、さらりと払った。
「……もしうまくいかなければ、我らの仲間にすればいい。は獣の世話が上手だ。きっと大きな助けになってくれるだろう」
施設の管理者の一人として起用しようと、微笑む。
勝手に命を救い、魔界へ連れてきて、獣の大男と番わせようとする。
ネメニアのしていることは一般的な倫理から、大きく外れたものであった。
だがここは魔界で、彼女は人ならざるものだ。
それでもあなたの幸せが形づくれるように、望みをかけていた。
「さあ、行け」
「……はい!」
デシエは闇のケープをまとい、目的地へと向かった。
深い森は本来、魔物が多く出る危険な場所だ。
この地の管轄であるゼイラン軍の兵士たちが、交代で治安維持をしている。
その夜、ルドガーが仕事に出ているのを確認したデシエは、彼が戻ってくる頃合いを見ていた。
あなたを小屋からそう遠くない場所の地面へ置く。
安全に注意を払い、遠くから気配を消してじっと見つめていた。
赤い月がふたつ輝く夜に、ルドガーは帰ってきた。
「…………?」
人化した彼の服はところどころ破れ、体にも血がついている。
剣を携えた軽装備の彼は、あなたを発見した。
立ち止まり、周囲をうかがう。
鋭い視線を走らせ、嗅覚を働かせたあと、彼はあなたのそばにしゃがみこんだ。
そして上体を曲げて覆うように、裸のあなたの匂いを鼻で確かめている。
「…………」
彼は警戒する表情のまま、起き上がった。
そして立ち去る。
デシエは息を呑んで見守っていたが、失敗に終わったかと落胆した。
しかし、ほどなくして走る音が聞こえた。