【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌- の短編集
第7章 【番外編】中身にご注意
始まりは、科学班の廊下だった。
定期検査を終えた私は、検査結果を抱えてコムイさんの部屋へ向かっていた。
ちょうど角を曲がったところで、向こうから神田が歩いてくる。
互いに軽く視線を交わし、そのまますれ違おうとした。
「室長! それ、蓋を開けたまま運ばないでください!」
リーバー班長の怒声が響く。
直後、科学班の扉が勢いよく開いた。
「大丈夫、大丈夫! ちょっとくらい空気に触れても――わっ!」
飛び出してきたコムイさんの手には、淡い紫色の液体が入った二本の試験管。
それを避けようとして、私と神田は同じ方向へ身体を動かした。
肩がぶつかる。
「きゃ……っ」
「チッ」
傾いた試験管から、液体が飛び散った。
甘いような、苦いような、奇妙な匂い。
視界が白く染まり、身体の内側を強く引っ張られるような感覚に襲われる。
一瞬、自分がどこに立っているのかさえ分からなくなった。
次に目を開けた時、私は廊下へ片膝をついていた。
「……何、いまの……」
口から零れた声に、息が止まった。
低い。
自分のものではない、聞き慣れた男の声だった。
視界の端へ、長い黒髪が落ちてくる。
床へついた手は大きく、指には幾つもの剣胼胝が刻まれていた。
腰には、六幻。
「…………」
恐る恐る顔を上げる。
少し離れた場所に、私がいた。
銀髪を床へ流し、呆然と自分の両手を見下ろしている。
けれど、瞳に宿っているのは、見慣れた鋭い殺気だった。
「……どういうことだ」
私の声で、神田の口調。
嫌な予感が、確信へ変わる。
「神田……?」
私が呼び掛けると、私の身体がこちらを睨んだ。
「俺の声で喋るな」
「無理言わないでよ。今の私、この声しか出せないんだから」
「知るか」