【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌- の短編集
第2章 【番外編】恋人の手料理は、森の味
ティファは迷いのない手つきで、刻んだ香草を鍋へ投入する。
ひと掴み。
二掴み。
三掴み。
最後には、まな板の上に残った分まで、丁寧に包丁の背で鍋へ滑り込ませた。
それまで甘く優しかったスープの香りが、一瞬にして濃厚な薬草の匂いへと変わる。
もわり、と立ち上る湯気。
ジョニーが鼻を押さえた。
「うわっ……! 目が覚める匂い……!」
リナリーが笑顔を保とうとしながら、鍋を見つめる。
「ティファ……これは、少し、元気が出過ぎる味になりそうね」
「元気が出るなら、良かったわ」
ティファはほっとしたように小さく微笑んだ。
「最近、みんな疲れているでしょう? 少しでも身体に良いものを作りたかったの」
その顔を見た瞬間。
誰も、これ以上は何も言えなくなった。
完全な善意だった。
一点の曇りもない、純粋な気遣いだった。
ラビが顔を覆う。
「……可愛い……可愛いけど、これは……」
「ラビ、現実から目を逸らさないで」
リナリーが苦笑する。
「いや、見えてるさ。すげぇ見えてる。鍋の中に森が見える」
「森?」
ティファが首を傾げる。
「いや、何でもねぇ!」
ラビは即座に首を横へ振った。
その後、卵だけはリナリーが隣で見守りながら割らせたため、何事もなく鍋へ入った。
人参と卵と、大量の香草。
ティファは最後まで真剣な表情で鍋を混ぜ続ける。
時折、味を確かめるように湯気の香りを吸い込み、満足そうに頷いている。
その姿だけを見れば、懸命に料理を作る健気な恋人そのものだった。
鍋の中身を見なければ。