【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌- の短編集
第2章 【番外編】恋人の手料理は、森の味
数時間後。
黒の教団の厨房には、炒めた玉葱の甘い匂いと、柔らかな湯気が満ちていた。
大きな鍋。
籠いっぱいに盛られた野菜。
香り付け用に用意された香草。
リナリーが慣れた手つきで材料を並べ、ジョニーが興味津々でその傍をうろうろしている。
アレンは少し離れた調理台で、皿や器具を整えていた。
神田はというと、リナリーに半ば強引に連れてこられたらしく、壁際で腕を組んだまま、露骨に不機嫌そうな顔をしている。
「なんで俺までいる」
「せっかくだもの。神田にも食べてもらいたいの」
リナリーが笑顔で答える。
「いらねぇ」
「まあまあ、ユウ。そう言わずにさ」
「その呼び方すんな、馬鹿ウサギ」
いつもの言い合いが始まりかけた、その時。
厨房の奥の扉が開いた。
「お待たせ」
ティファが、白いエプロンの紐を整えながら入ってくる。
洋服の袖は邪魔にならないよう肘まで捲られ、長い銀髪は背中で緩く一つに結ばれている。
いつもと違うのは、それだけだった。
けれど。
「…………」
ラビが完全に固まった。
「ラビ?」
ティファが不思議そうに首を傾げる。
返事はない。
ラビは数秒、言葉を失ったように彼女を見つめたあと、片手で顔を覆った。
「……やば」
「何が?」
「いや、待って。何その格好」
「エプロンだけれど」
「知ってる。知ってるけど……」
指の隙間からもう一度こちらを見て、ラビは心底困ったように息を吐いた。
「可愛過ぎる」
「……よく分からないわ」
ティファが困ったように眉を寄せる。
その様子に、リナリーがくすくすと笑った。
「ラビ、ティファが入ってきてからずっと見てるわね」
「だって、恋人のエプロン姿だぞ。これ見て平静でいろって方が無理だろ」
ジョニーまで感心したように頷く。
「なんか、すごい新婚さんっぽいね」
「ジョニーまで……」
ティファは僅かに頬を染め、視線を逸らした。