第26章 【第二十五話】終幕なき夜・後編
私は驚いて言葉を止めた。
神田も、自分で声を荒げたことに気付いたらしい。
一瞬だけ、気まずそうに視線を逸らす。
けれど。
すぐに、苛立ったように私を見る。
「……あのクソみてぇな男に、好き勝手見られて」
そこで、言葉が止まった。
「……何でもねぇ」
胸の奥が、小さく跳ねた。
「神田……?」
自分でも、どうしてその名をそんなふうに呼んだのか分からなかった。
神田の瞳が、一瞬だけ揺れる。
それは、私の反応に戸惑ったようにも見えた。
けれど次の瞬間には、いつもの刺すような視線へ戻っていた。
「……もういい」
吐き捨てるように言い、団服を乱暴に羽織る。
その仕草はいつも通りだった。
いつも通り、ぶっきらぼうで。
いつも通り、不機嫌で。
なのに、何故か少しだけ違って見えた。
「神田?」
呼び掛けると、彼は振り返らない。
「帰るぞ」
それだけ言って、扉へ向かう。
私は小さく首を傾げた。
「……変なの」
ぽつりと呟く。
すると、資料をまとめていたトマが、僅かに視線を上げた。
けれど、何も言わなかった。