第26章 【第二十五話】終幕なき夜・後編
宿の控え室へ戻ると、トマがすぐに医療道具と私の団服を用意してくれた。
「腕の傷は浅いようですが、消毒はしておきましょう」
「ありがとう」
私は深紅のドレスから団服へ着替え直し、腕の傷へ手当てを受ける。
舞台の熱。
AKUMAの叫び。
支配人の狂った笑み。
まだすべてが、身体の奥へ貼り付いているみたいだった。
包帯を巻き終える頃には、少しだけ呼吸が落ち着いていた。
椅子の背へ掛けていた黒い団服を手に取る。
神田は窓際で、腕を組んだまま外を見ていた。
私はゆっくり近付き、畳んだ団服を差し出す。
「神田」
彼が、ちらりとこちらを見る。
「……これ。ありがとう。助かったわ」
神田は数秒、私の手の中の団服を見ていた。
やがて、無言で受け取る。
けれど、すぐには羽織らなかった。
黒い布を片手に持ったまま、不機嫌そうに目を伏せる。
「……次からは」
「何?」
「……あんな薄っぺらい格好で、外まで出るな」
私は思わず瞬きをした。
「任務だったのよ」
「知るか」
即答だった。
「でも、潜入には必要だったでしょう?」
「だから気に食わねぇっつってんだろ」
神田の声が、僅かに強くなった。