• テキストサイズ

【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第26章 【第二十五話】終幕なき夜・後編



「……なるほど」

男の口元が、僅かに歪む。


「確かに、見目は悪くない。だが、我々が求めるのは、ただ美しいだけの歌ではない」

「承知しているわ」

私はそっと喉元へ手を添えた。


「悲しみを知らない声では、死者を想う心へは届かないでしょう?」

その瞬間。
男の瞳に、初めて興味が宿った。


「ほう……?」

私は一歩だけ距離を詰める。


「この舞台を、ただの見世物で終わらせるのは惜しいわ」

声を落とす。

「もし本当に、失った人を求める者達へ届く舞台を望むのなら……私に歌わせて」



静かな沈黙。


男は数秒、私を見つめた。


やがて。

「……面白い」

低い声が落ちる。


「ちょうど幕間に予定していた歌手が、急な体調不良で出られなくなってね」

わざとらしい言い方だった。


本当に体調不良なのか。
それとも、既に何かへ巻き込まれたのか。


胸がざわつく。


「君が本物なら、客はすぐに分かる」

男はゆっくり手を差し出した。


「今夜の幕間で、一曲歌ってもらおう。そこで私の期待に応えられたなら……次の幕で、君を我々の悲劇へ迎え入れよう」


私は小さく微笑んだ。


「光栄だわ」

男の手へ、自分の指先を僅かに触れさせる。

その瞬間。
喉の奥で、『ニルヴァーナ』が鋭く脈打った。


冷たい。

この男の奥にあるものは、人の悲しみへ寄り添う感情ではない。


壊れていく人間を見て、喜ぶ者の匂いだった。

/ 1033ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp