第25章 【第二十四話】終幕なき夜・前編
神田は何も言わなかった。
ただ、ラビを見たあと、今度は私へ視線を向ける。
その目が、何を考えているのかは分からない。
「さ、さて! 出発は数時間後だから、各自準備を! ね!」
コムイさんが、無理矢理明るい声を出す。
「詳しい話はまた今度! 今は時間がない! ないったらない!」
「話逸らすの下手過ぎるさ、コムイ」
ラビが呆れたように息を吐く。
けれど、その表情はすぐ真面目なものへ変わった。
手にしていた包みを、私へ差し出す。
「はい、これ薬」
「ありがとう」
受け取ると、彼の指先が私の手へ一瞬だけ触れた。
ほんの僅かな接触。
「……無茶だけはすんな」
その響きだけで、胸の奥がじんわり熱くなった。
「ええ」
私が頷くと、ラビはまだ何か言いたげに口を開きかけた。
けれど、結局それ以上は言わない。
ただ、机の上の深紅のドレスをもう一度見て、心底嫌そうに眉を寄せた。
「……ほんと、嫌な任務さ」
その呟きに、神田が再び小さく舌打ちした。
私はそちらを見たけれど、神田は既に顔を背けていた。