第3章 【第二話】次へ繋ぐ手
扉が閉まる。
御者が手綱をさばき、馬車がゆっくりと動き出す。
窓越しに、アレンの姿が見えた。懸命にこちらを見送っている。
私は窓を開け、身を乗り出す。
「アレン!」
彼が顔を上げる。
「立ち止まらないで!」
声を張る。
「私も、先で待ってるから!」
「はい! 必ず、追いつきます!」
アレンが、胸の前で左手を握り締め、精一杯の声で返す。
馬車は速度を上げる。師匠とアレンの姿が、少しずつ遠ざかっていく。
最後まで、アレンは手を振っていた。
私も、彼の姿が見えなくなるまで手を下ろせなかった。
やがて道が曲がり、宿も、二人の姿も見えなくなる。
寂しさが、急に押し寄せた。私は座席へ身体を戻し、泣かないように唇を噛んだ。
膝へ抱き寄せた鞄の中には、母の髪紐と、アレンがくれたボタンがある。
戻りたい場所も、追いついてくると言ってくれた人もいる。
「……行こう」
小さく呟く。馬車は、朝の光の中を走り続けた。
黒の教団本部へ。
私が、ティファという一人の人間として、エクソシストとして生き始める場所へ。
いずれ私の運命を大きく変える、幾つもの出会いが待つ場所へ。