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【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第3章 【第二話】次へ繋ぐ手



宿の前には、一台の馬車が停まっていた。

乾いた風が道の砂を巻き上げる。

鞄を抱えて馬車へ乗り込もうとしたところで、背後から足音が聞こえた。

振り返る。


アレンが、宿の入口まで追いかけてきていた。

師匠は少し離れた柱の陰に立ち、煙草を咥えたままこちらを見ている。


「……ティファ」

アレンが呼ぶ。

私は馬車の前で立ち止まった。

「どうしたの?」

「これを……」

アレンは、握り締めていた手を差し出した。


掌の上にあったのは、小さな銀色のボタンだった。

よく見れば、彼が普段着ている上着の袖に付いていたものと同じ形をしている。


「……ボタン?」

「すみません。渡せるものが、これくらいしかなくて」

耳を赤くしながら、アレンは俯いた。

「でも……持っていてほしいんです」

胸の奥が、優しく締め付けられる。


私はそっと手を伸ばし、その小さなボタンを受け取った。

指先に伝わる、わずかな温度。


「……ありがとう」

「なくさないで」

「うん。大切にする」

アレンは、ようやく少しだけ安心したように息を吐いた。


私は鞄の小さな内袋を開き、母の銀の髪紐の隣へ、アレンから受け取ったボタンをしまう。

母の形見と。

いつか再会する約束のような、小さな銀の欠片。


鞄を閉じると、アレンの表情がわずかに和らいだ。

「じゃあ、行ってくるわ」


「……うん」

アレンの声が、わずかに震える。

「気をつけて」


「あなたも。師匠に潰されないようにね」

少し冗談めかして言うと、アレンは困ったように笑った。

「それは……自信がないけど」


「おい、聞こえてんぞ」

少し離れた場所から、師匠の低い声が飛んでくる。

私とアレンは、思わず顔を見合わせた。


ほんの一瞬。

二人の間へ、昔のような重たい痛みではない、柔らかな空気が流れる。

その温度を忘れないように、私は馬車へ乗り込んだ。

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