第23章 【第二十二話】もう戻れない夜
夜の書庫は、ひどく静かだった。
高い本棚の間を、ランプの明かりが細く照らしている。古い紙とインクの匂いが、冷えた空気に溶けていた。
一番奥の机に、灯りが一つだけ残っている。
積み上げられた本の山の向こうで、赤い髪が揺れた。
「……ティファ?」
頁を捲る手を止めて、ラビが驚いたように顔を上げた。
「こんな時間に、どしたんさ」
翠の瞳が、私の肩のストールに落ちた。
「……そんな薄着で。風邪ひくぞ」
立ち上がりかけたラビの手元で、積んだ本が崩れそうになる。慌てて押さえる姿に、ふっと肩の力が抜けた。
ランプの明かりの下で、目元には疲れが滲んでいた。
「……大変そうね」
「あー……明日の昼までに、全部頭に入れろってさ。じじい、容赦ねぇから」
ラビは苦笑して、開いたままの本を伏せた。
言いに来たはずの言葉が、喉で止まる。
……こんな顔のラビに、今、全部ぶつけるわけにはいかない。
「ティファ?」
「……ラビ」
名前を呼ぶと、ラビが黙った。
私は、息を吸う。
「明日の夜。消灯の鐘が鳴ったら……中央塔のチャペルに、来てほしいの」
伏せた本に置かれていたラビの指が、止まった。
「ちゃんと、話したいことがあるの」
ランプの炎が、揺れた。