第20章 【第十九話】もう譲れない
医師も、まだ少し身構えているようだった。しばらくクロウリーを見つめてから、深く息を吐く。
「……傷を負った者を、雪の中へ追い返すほど薄情ではない」
「し、しかし吾輩は……」
「黙って診せろ。牙があろうがなかろうが、血を流しているなら患者だ」
「先生……!」
「危険では……」
「不安なら帰れ。ここは診療所だ」
その一言で、ざわめきが止んだ。
クロウリーは立ち尽くしたまま、深々と頭を下げた。
「……ありがとう……である……」
医師は、私とクロウリーを順に見た。
「娘さんは今日一日、ここから動かせん。そっちの男も、まともに歩ける状態じゃない。この雪だ、止むまで空き部屋で休んでいけ」
窓の外を見ると、雪はさっきより強くなっていた。
「……皆で、泊まるのであるな」
クロウリーが、ぽつりと呟く。ほっとしたような、泣き出しそうな声だった。
「ええ。今日は、休みましょう」
医師に案内されて、クロウリーを部屋まで送る。
クロウリーを寝かせて部屋を出ると、先に出ていたアレンが、隣の部屋の扉に手を掛けたまま振り返った。
「ティファ。……大丈夫ですか?」
「……傷なら、平気よ」
アレンが、ほんの一瞬だけ黙った。
「……なら、いいんです」
そう言って、小さく笑った。いつもの顔だった。
「何かあったら、言ってくださいね。僕でよければ、いつでも聞きますから」
「……ありがとう」
おやすみなさい、と言って、アレンは扉の向こうへ消えた。
私も部屋に入って、後ろ手に扉を閉める。
そのまま扉に背中を預けて、しばらく動けなかった。