第20章 【第十九話】もう譲れない
古城を出ると、冷たい夜風が頬を撫でた。
右肩の傷が、歩くたびに焼けるように疼く。ラビの腕に支えられたまま、私は黙って足を運んでいた。
……私達が来なければ。
クロウリーとエリアーデは、あの城で寄り添ったまま暮らしていけたのかもしれない。
考えても、答えは出なかった。足ばかりが重くなる。
「……あんま考え込むなよ」
前を向いたまま、ラビが言った。
「でも……私達が来たせいで、全部壊れたみたいだった」
「エリアーデがAKUMAだった時点で、いつかはこうなってたさ」
ラビは少しだけ黙ってから、続けた。
「でも、クロちゃんがエリアーデを好きだった気持ちまで、嘘だったワケじゃねぇだろ」
「……そうね」
「お前が歌ってやったから、クロちゃん、ちゃんと泣けたんさ」
思わず、ラビを見上げた。
ラビは照れ臭そうに、空いた方の手で頭を掻く。その袖口には、乾いた血がこびりついたままだった。
「だから、そんな顔すんな」
優しい声だった。いつも、心を軽くしてくれる声。
――ストラーイクッ!!
不意に、あの声が耳の奥に蘇る。
心を軽くしてくれるのと、同じ声で。
胸のどこかが、すうっと冷えていった。
「……寒ぃ?」
覗き込んでくるラビから、目を逸らす。
「いいえ」
「……目、合わせてくんねぇのな」
「……少し、疲れただけ」
ラビは何か言いかけて、やめた。支える腕だけが少しだけ強くなる。
「診療所まで、あとちょっとさ」
傷に響かないように、歩幅を合わせてくれているのが分かった。
その優しさが、今は少しだけ苦しかった。