第19章 【第十八話】偽物じゃなかった愛~クロウリー編③
「……エリアーデ……」
掠れた声が、歌の中に沈んでいった。クロウリーは、何度もその名前を呼んだ。
「う……あぁ……っ……」
押し殺していた声が、とうとう崩れた。涙が、冷たい石床に落ちていく。
私は、歌を止めなかった。
割れた窓から差し込む月明かりが、いつの間にか床の端まで傾いていた。
泣き続けていたクロウリーの身体から、ゆっくりと力が抜けていった。
「……ティファ、もういい」
振り返ると、ラビが立っていた。
「……もう、ちゃんと届いてるさ」
隣で、アレンも黙ってクロウリーを見つめている。
私は歌を終えて、意識を失ったクロウリーの傍に膝をついた。頬に残った涙を、そっと拭う。
立ち上がろうとして、視界が揺れた。
右肩の傷から、思っていた以上に血が流れていたらしい。膝から力が抜ける。
崩れ落ちるより先に、ラビの腕が私の腰を支えた。
「おっと。だから無茶すんなって」
すぐ近くで聞こえた声から、反射的に顔を逸らす。
「……一人で歩けるわ」
離れようとしても、腕は緩まなかった。
「却下。お前今、顔真っ白」
支える腕の袖口に、乾きかけた血がこびりついていた。
「でも、ラビだって……」
「でもじゃねぇさ」
小さく息を吐いたラビの声は、困るくらい優しかった。
アレンは、意識を失ったクロウリーを見下ろしたまま口を開いた。
「僕はここに残ります。クロウリーを、一人に出来ませんから」
私が頷くと、ラビが支える腕に力を込めた。
「ほら、診療所行くさ」
「……ありがとう」
ぽつりと零れた声に、ラビが少しだけ笑う。
「珍しく素直だな」
言い返す気力もなくて、私は黙って前を向いた。