第18章 【第十七話】歌声は吸血鬼を惑わせる~クロウリー編②
私は肩を押さえて、浅く息を整えた。
クロウリーから、ひどく歪んだ音が伝わってくる。怒りの奥で、怯えた子供みたいな何かが縮こまっていた。
荒れた心を鎮めるための歌を、私は歌い始めた。
夜の墓地に、旋律が広がっていく。
「っ……!」
クロウリーの動きが、止まった。紅い瞳が揺れ、頭を押さえて呻く。
「な、なんだ……この歌は……」
届いている。そう思ったのと同時に、尖塔の上から冷たい声が落ちてきた。
「……やっぱり貴方、邪魔だわ」
無数の蔓が、一斉に私へ襲い掛かる。
「ティファ!!」
前へ飛び出したラビの鉄槌が、蔓を叩き潰した。
「アレイスター様」
尖塔の上から、甘い声が落ちてくる。
「惑わされてはいけませんわ。あの子の声は、毒ですもの」
揺らいでいたクロウリーの目に、また狂気が戻る。轟音とともに飛び込んできたクロウリーが、鉄槌ごとラビを吹き飛ばした。
「ラビ!」
歌が、途切れた。
振り返ると、尖塔の上にもうエリアーデの姿はなかった。回廊の奥へ消えていく紫の裾を、アレンが睨んでいる。
「……クロウリーを煽っているのは、あの人です。あの人を止めないと、彼はずっとこのままだ」
アレンが、左手を構えた。
「ラビ! ティファを頼みます!!」
「はぁ!? お前一人で行く気か!?」
返事を待たずに、アレンは回廊の闇へ駆け込んでいった。
「っ、アレン――!」
残された墓地で、クロウリーがゆっくりと立ち上がる。
瓦礫を払って起き上がったラビが、私と並ぶ。下がってろとは、言わなかった。
胸に刺さったままの小さな棘を、今は奥へしまい込んだ。
クロウリーの目が、もう一度私達を捉えた。