第15章 【第十四話】言いかけた熱
私は、黙って地図を見つめた。
赤い印の付いた場所。あの遊園地の中へ、生きた少年が餌として置かれていた。
自分が必ず手を伸ばすと見越されて。
身体の芯が、すっと冷えていく。
「君が狙われている可能性は、もう無視できない。でも、それは君一人が背負って警戒すべきことではないんだ」
コムイさんの声が、少しだけ柔らかくなる。
「同じ性質の異常に関わる任務では、君にだけ危険を引き受けさせることはしない」
「……はい」
頷いた。
「私も……次は、もっと慎重に動きます」
答えた声は、自分で思っていたよりも静かだった。
コムイさんはしばらく私を見つめ、それから、僅かに表情を和らげる。
「うん。頼むよ」
そして、机の上に置かれた資料へ視線を落とした。
「ただ、慎重になることと、君があの少年へ手を伸ばしたことを悔やむのは別だ」
胸が、詰まった。
「敵が君の優しさを利用したとしても、君が救った命まで間違いになるわけじゃない。あの子が今、生きているのは、君が歌ったからだ」
三角巾で固定された右腕へ、自然と視線が落ちた。
痛みはまだ消えていない。少年の記憶も、戻ってはいない。
あの小さな命は、確かにこちら側へ残った。
「……はい」
今度は、少しだけはっきりと答えた。
その時、隣でラビが小さく息を吐いた。
振り向くと、彼はすぐに視線を逸らす。
「……なら、いいさ」
それだけ言って、ラビはいつものように笑おうとする。
その笑みが、どこか不器用で。胸の奥へ、静かに引っ掛かった。