第14章 【第十三話】夜明けまで、この手を
「……あら」
「ち、違っ――」
「うるせぇ……」
半分眠ったままのラビが、眉を寄せた。手だけは、離れない。
看護師は、微笑むだけだった。顔が一気に熱くなる。
「ラ、ラビ。起きて……!」
左手は掴まれたまま、反射的に右腕を持ち上げかけて、痛みに顔が歪んだ。
その気配に、ラビがゆっくり目を開けた。
翠の瞳が、至近距離で私を映す。焦点の合わないまま、一度瞬いた。
「……ティファ」
寝惚けたまま名前を呼んで、ラビは握った手に、もう一度力を込めた。
それから、繋いだままの手へ視線が落ちた。
「……あ」
本当に珍しく、ラビが固まった。
その耳が、じわじわと赤くなっていく。
私は、もっと固まった。
看護師が、気を利かせるようにそっと背を向ける。
「朝食、ここに置いておきますね。診察まではまだ時間がありますから――どうぞ、ごゆっくり」
扉が静かに閉じられ、病室には朝の光と気まずい沈黙だけが残った。
ラビは、まだ私の手を握ったままだった。
「……ラビ」
「……悪ぃ」
視線を逸らしたまま手を離そうとして、ラビの動きが止まった。私の右腕の包帯に、薄く赤が滲んでいる。
赤かった耳から、すっと色が引いていった。
離れかけたその指を、今度は私の方から握った。
「さっき、自分で動かしたせいよ。あなたのせいじゃないわ」
ラビは目を伏せたまま、私の手を握り返した。
「……分かってるさ」