• テキストサイズ

【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第2章 【第一話】雪に残る歌



その日、師匠は朝から姿を消していた。

理由は聞かなかった。
聞いても、きっと答えは返ってこない。


私は屋敷の書斎で、師匠に渡された資料を読んでいた。
けれど、窓の外が暗くなり始めても師匠が戻らないことに、少しだけ落ち着かなくなる。


その直後だった。
玄関の扉が、重たく軋みながら開く。
冷たい夜気が、一気に屋敷の中へ流れ込んだ。

私は反射的に立ち上がる。

「師匠――」

呼びかけた声は、途中で止まった。


戻ってきた師匠の腕の中に、小さな身体があった。

白い髪の少年。

血と泥に汚れた服。
力なく垂れた、異様な形の左腕。

その姿を見た瞬間。

喉の奥に宿るニルヴァーナが、微かに熱を持った気がした。

それと同時に、胸の奥へ、ひどく弱い痛みのようなものが触れる。


私は息を呑んだ。

彼に宿る何かへ反応したのか。

それとも、ただ壊れかけた少年の痛みに、自分が引き寄せられただけなのか。

この時の私には、まだ分からなかった。


「ティファ」

マザーの声に、はっと顔を上げる。

「湯と清潔な布を持ってきな。ぼさっとしてる場合じゃないよ」
「……はい」

私は慌てて頷き、台所へ駆けた。


何を失ったのかも。

なぜ、あんな腕をしているのかも。
どうして泣くことさえできないのかも。

この時の私は、何一つ知らなかった。


ただ、あの白い髪の少年が、壊れかけたまま師匠の腕の中にいた姿だけが、胸の奥へ焼きついて離れなかった。


少年の名が、アレンだと知るのは――その翌朝のことだった。

/ 1033ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp