第7章 【第六話】この世界に繋ぎ止めて
私は、焼けた紋様を再現した図から目を離せなかった。
「……ブックマン様」
「何だ」
「昨日は、誰が術を使ったのか断定できないと仰いました」
ブックマンの瞳が、僅かに細められる。
私は膝の上で、そっと手を握り締めた。
「それでも……持ち帰った痕跡を調べた今は、何か分かったのですか?」
暫く。
雨音だけが、部屋を満たした。
「……一つだけ」
やがて、ブックマンが低く答える。
「村で見た時点では断定できなんだ。だが、持ち帰った紋様を調べて分かったことがある」
私は息を止めた。
「あの術は、お主の歌と同じものではない。だが、魂が還る流れを知る者でなければ、あれほど精密に逆転させることは難しい」
その視線が、ゆっくり私へ向く。
「お主の血に連なる者が関わっている可能性は、捨てきれぬ」
胸が、冷たく締め付けられた。
「……セトラが?」
自分の声が、ひどく遠く聞こえた。
ブックマンは、すぐには答えなかった。
その沈黙だけで、嫌な予感が胸の底へ広がっていく。
私以外に、セトラの血を引く者がいるのだろうか。
それとも、誰かがその知識だけを受け継いだのか。
母から受け継いだ、魂を導くための歌。
それを歪め、死者を縛りつけるために使った者がいるかもしれない。
「……中央庁には、何と報告するのですか」
尋ねると、コムイさんの表情が僅かに曇った。
「現時点で分かっていることを、そのまま報告する。君の能力が、拘束された魂の解放と、生存者の救出に有効だったことも含めてね」
その言い方に、胸の奥が微かにざわついた。
コムイさんは、私の反応に気付いたのだろう。
苦い表情のまま、続けた。
「ティファちゃん。中央庁が君の力へ関心を持つことは、避けられないと思う」
背筋へ、冷たいものが這った。
教団の一員として戦う覚悟はある。
私の歌で救える魂がいるなら、そのために力を使いたい。
けれど。
誰かを救うためではなく、ただ異常現象へ対処するための手段として。
いつか、自分の意思とは関係なく“使われるもの”になっていくのではないか。
そんな予感が、喉の奥で脈打つニルヴァーナの熱と重なった。