第7章 【第六話】この世界に繋ぎ止めて
自室へ戻ったあとも、眠りはなかなか訪れなかった。瞼を閉じても、暗闇に浮かぶのはアンナの空白の瞳ばかりだった。
――おかあさんって、だれ?
小さな声が、何度も耳の奥で繰り返される。
正しいことをしたはずなのに、痛みは少しも消えなかった。
私はゆっくり身体を起こした。
喉の奥には、まだ微かな痛みが残っている。
ラビには休むと答えた。
本当に、そのつもりだったのに、このまま目を閉じている方が息が詰まりそうだった。
私はベッド脇へ置いていた薄手の上着を羽織り、机の引き出しから小さな手帳を取り出した。
それだけを持って、静かに部屋を出る。
向かったのは、鍛錬場ではなかった。今の身体で刃を振るえば、きっとラビの言った通りになる。
代わりに私の足は、自然と書庫へ向かっていた。
せめて、残しておきたかった。あの村が、確かにそこにあったということを。