• テキストサイズ

【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第51章 【第四十六話】かたちにならないもの



聞き返した声が、うまく出なかった。



父が。


ファインダー?



頭の中で何度繰り返しても、うまく形にならない。

私の知っている父と、教団の制服を着た人間がどうしても結びつかなかった。


大きな手で薪を割って。
母の料理をつまみ食いしては、よく怒られていた。

私を肩へ乗せて笑う人だった。



――その父が、戦場にいた。



父の話を、この人の口から聞いたことは一度もない。

母についてさえ、あの日にほんの僅か聞いただけだった。


「教団にいた頃、あいつはお前の母親の任務に付いてたらしい」

「……」


「歌を受けたことがあるそうだ」

心臓が、静かに鳴り始める。



師匠は煙草を指に挟み、淡々と続けた。

「戦えなくなった兵を、歌でもう一度立たせる。教団にとっちゃ便利な力だったんだろうよ」

「……」

「怖くなくなる。身体が動く。死ぬまで前へ出られる」

煙が細く上がる。


「その代わり、歌う奴が削れてく」

指先が冷えた。

「そうなるところを、何度か見たそうだ」


「……母も?」

「さあな」
「師匠」

「全部知ってたわけじゃねぇ」

少しだけ声が低くなる。


「ただ、お前の親父は、歌を受けて喜ばなかったらしい」

私は黙って師匠を見る。


「歌ってる女の顔を見ちまったんだと」

煙草の先から、灰がひとつ落ちた。


「人形みてぇだった、と」

息が止まりそうになった。



私の知っている母は、よく笑う人だった。

歌う時も、いつも楽しそうだった。



でも。

教団にいた頃の母を、私は知らない。



「命さえ助かりゃ、心はどうなってもいいのか」

師匠は前を見たまま言った。

「そう思ったらしい」


胸が、ゆっくり沈んだ。


私は、自分が歌っている時にどんな顔をしているのか知らない。



だからだろうか。

これは、母だけの話ではない気がした。


/ 1235ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp