第50章 【第四十五話】『守る』というかたち
じじいはしばらく答えなかった。
分からないことが、一番嫌な答えだった。
「ラビ」
「ん?」
「お前は結晶型にはなるなよ」
「……あ?」
「イノセンスにそこまで関わる必要はない」
紙束の端を押さえる指に、力が入った。
「ラビ。一族の役目を忘れてはおるまいな?」
「……」
「もし結晶型の兆候が現れたら、すぐ言うんじゃぞ」
じじいの声は、いつもの叱責の調子ではなかった。
「そしたらもう、教団にはおれん」
息が詰まった。
じじいはそれ以上何も言わず、静かに部屋を出ていく。
扉が閉まり、また静かになった。
――もう教団にはおれん。
その言葉だけが残る。
不意に浮かんだのは、病室で笑っていたティファの顔だった。
もし、オレにも同じ変化が起きたら。
強くなれるかもしれない。
なのに、その兆候が出た時点で、ここにはいられなくなる。
……何なんだよ、それ。
教団に来る前のオレなら、この頁もただの記録として閉じていた。
今は、閉じられない。
オレはもともと、教団の人間じゃない。
そんなことは最初から分かってる。
なのに。
『ブックマンJr.』
あの声が蘇る。
ルベリエにそう呼ばれた瞬間、身体が動かなくなった。
たった一言で。
――中央庁には知られた。
オレを止めたければ、そう呼べばいい。
あの男は、オレの止め方を覚えた。