第50章 【第四十五話】『守る』というかたち
「喋るのと歌うのでは、喉への負担が全然違うの。声が出るようになってきたからって、治ったわけじゃないわ」
「……はい」
「無理に歌えば、また声が出なくなる可能性もあるし――最悪の場合、そのまま戻らなくなることだってあるわ。歌だけじゃないわよ。話す声も、ね」
思わず喉へ手をやる。
「まあ、今の経過なら必要以上に心配することはないわ」
婦長さんはいつもの調子で続ける。
「だからこそ、今はちゃんと治すこと。焦らない。分かった?」
「はい」
「よろしい」
満足そうに頷き、掛け布団の端を持ち上げる。
「それと、今夜は冷えるから肩まで掛けて寝なさい」
【子供じゃないのに】
「言われなくても出来る人には言わないわよ」
何も言い返せなかった。
隣で、ラビが小さく吹き出す。
「……何よ」
「いや、別に?」
婦長さんが呆れたように息を吐く。
「元気なのは結構だけど、ほどほどになさいね」
盆を取り上げた。
「じゃあ、私は次を回ってくるから」
婦長さんは病室を出ていった。
ぱたん、と扉が閉まる。
少しだけ静かになった。
私は、まだ熱の残る唇へ無意識に指を触れそうになって――途中で止めた。
横を見る。
ラビと目が合う。
――見られていた。
「……」
ラビの口元が、ゆっくり上がった。
「何さ?」
「……なんでもない」
今度は私が先に顔を逸らした。