第49章 【第四十四話】灰に咲く白百合
「ティファ」
薄く目を開けると、ラビが苦い顔のまま、腕の中の身体を覗き込んでいた。
「……無茶しすぎさ。ほんっと、心臓に悪ぃ女」
何か言おうとしても、うまく息が続かない。
肺が焼けるように痛み、先ほどの光の余韻が身体中へ残っている。
それでも、ニルヴァーナは静かだった。
暴れもしない。
囁きもしない。
ただ疲れ果てたように、ゆっくりと脈打っている。
――さっきのは、何だったの。
問いかけても、答えは返ってこなかった。
「第五研究室へ救護班を回せ! 生存者の収容を急げ!」
上層から声が響く。
それと同時に、ティファの喉元が微かに脈打った。
「……呼んでる」
掠れた声しか出なかった。
歩き出そうとした身体がよろめき、すぐにラビの腕が支えた。
「おい、待てって……」
ティファはそれでも、第五研究室の方へ顔を向けた。
ラビはその横顔を見て、何か言いかける。
「……ったく」
結局、それ以上は止めなかった。
ラビは傷口を避けるように、ティファの腰へそっと腕を回した。
「――ほら、行くぞ」
救護班の背中を追う。
一歩踏み出すたび、脇腹が脈打った。
階段へ差しかかったところで、膝から力が抜ける。
「っと」
倒れる前に、ラビの腕が回った。
次の瞬間には、視界が高くなる。
背負われたのだと気付くまで、少しかかった。
その背中へ身体を預けて初めて、彼の呼吸が浅いことに気付く。
頬へ触れた団服が、じっとりと湿っていた。
鉄臭い。
――血。
ラビの血だ。
肩へ回した指が、僅かに強張る。
下ろして。
そう伝えようとしたのに、声がうまく出なかった。
「いいから掴まってろ」
こちらを見てもいないのに、ラビが言った。
一度も、下ろそうとはしなかった。