第49章 【第四十四話】灰に咲く白百合
低い声が、崩落区域へ響いた。
聞き間違えようのない声だった。
崩れた通路の上。
暗がりの中で、煙草の火が一つ灯っている。
断罪者を提げた赤髪の男が、そこに立っていた。
――師匠。
その姿を見た瞬間、張り詰めていた力が抜けかけた。
――この人が来たのなら、もう大丈夫。
そう思ってしまう自分がいた。
クロスは誰にも目を向けず、床へ縫い止められたレベル4だけを見下ろしている。
「このビール腹野郎が」
断罪者の銃口が、ゆっくりと持ち上がった。
「実験サンプルにしてやる」
吹き抜けの縁では、コムイが不意に足を止めていた。
片手を耳へ当て、俯いている。
誰かと話しているようだったが、この距離では相手の声どころか、コムイの声さえ聞き取れない。
やがて、その肩が大きく揺れた。眼鏡を押し上げ、こちらへ身を乗り出す。
「神田くん! ラビ! ティファちゃん! 大丈夫か!!」
吹き抜けの上から、声を限りに張り上げる。
「なんとか、生きてるさ」
ラビがティファを支えたまま応じた。
「よかった……! それと、リーバー班長から通信が入った!」
一拍置き、コムイの声が震える。
「第五研究室の下……ミランダが『時間停止』で守っていた者達は――みんな、まだ生きてる!」
ティファの胸が、大きく跳ねた。
あの魂の声が聞こえてきた第五研究室に、まだ生きて助けを待っている人達がいる。
「すまない……武器のないキミ達を戦わせて。ティファちゃんも、まだ傷が塞がっていないのに……」
「はぁ? テメェに謝られる筋合いはねェ。AKUMAと戦んのが俺の仕事だ」
神田が吐き捨てる。
「ユウってば、マジ男前……」
ラビの呆れ声が、力なく漏れた。
「あまいね」