第42章 【第三十七話】声なき再会
「……なるほどな」
クロスが、気だるげに目を細める。
「お前も面倒な女に引っかかったもんだ」
ラビの肩が、ぴくりと跳ねた。
「……ほっとけよ」
クロスは短く鼻で笑った。
ラビは言い返さなかった。
ただ、眠るティファの手を握り直す。
クロスはそれ以上、ラビには何も言わずに煙を吐いた。
そして、その視線が今度はアレンへ向く。
「で」
「……何ですか」
「お前は随分、物分かりのいい顔をするようになったな。馬鹿弟子」
アレンの表情が、僅かに強張った。
けれど、すぐに苦笑する。
「……師匠は、余計なことを言いすぎですよ」
小さく息を吐いて、アレンはソファのティファを見た。
その横で、彼女の手を握るラビも。
「ティファが、ラビの傍で笑えるなら……それでいいんです」
声は静かだった。
無理に飲み込んだ言葉ではなく、ちゃんと自分で選んだ答えのように聞こえた。
クロスはその顔を見て、つまらなそうに目を細める。
「……つまらねぇ男になったな」
「大人になったと言ってください」
「生意気言うな」
そう言いながらも、クロスはそれ以上、何も言わなかった。
誰も次の言葉を出せず、静けさだけがその場に残る。
その沈黙を、煙の匂いと共にクロスの低い声が切り裂いた。
「……終わってねぇぞ」
全員の視線がそちらへ向く。
クロスは気だるげに続ける。
「方舟は戻ったが、中身までは保証しねぇ。ノアが残ってる可能性はある。ぼさっとしてっと、もう一度最初っからやり直しだ」
現実を突きつけるような言葉に、空気がゆっくりと切り替わる。
ラビは小さく息を吐き、わずかに肩の力を抜いたあと、静かに立ち上がった。
名残を断ち切るような動きだったが、その視線は一度だけソファへと落ちる。
横たわるティファ。
さっき目を開けたばかりの、その姿を、ほんの一瞬だけ見つめる。
次に、あの目が開くまで、どれくらいかかるのか。
さっき見た一瞬が、しばらくの間、最後の“目を開けたティファ”になるかもしれない。
そう思うと、足が重かった。
それでも、ラビは膝を伸ばした。