第5章 【第四話】黒衣に宿る祈り
Side:ラビ
その日の夜。
書庫の奥で聞こえんのは、じじいが古い紙を捲る音だけ。オレは椅子の背にもたれて、それを眺めてた。
「にしても、珍しいさ」
頁を捲る手は止まんねぇ。
「新人の初任務に、じじいまで同行するなんて」
そこでやっと、顔が上がった。
「何が言いたい」
「別に? 随分と手厚いなーって思っただけさ」
しばらく黙ってから、ゆっくり資料を閉じる。
「あの娘は、滅びたはずのセトラの血を引いておる」
口元の笑みが、勝手に引っ込んだ。
「その上、寄生型のイノセンスまで宿しておる。何を見て、何を選ぶのか……我らの目で、見極める必要がある」
「……我ら、ね」
「ああ」
「つまり、じじいが直々に見に行くってわけか」
「他人事のように言うでない」
……やべ。藪蛇だった。
「お前は何のために、ここにおる」
「次のブックマンになるため、だろ」
もう何べんも口にしてきた答えだ。
いつもの顔のまま、椅子から立ち上がる。背中の方で、また頁を捲る音がし始めた。
ふと、何日か前の鍛錬場が頭を過る。
白銀の刃。ぶつかるたびに変わる、あいつの呼吸。それと、一瞬だけこっちに向いた目。
見てたのは、オレの方のはずなんだけどな。
逆に、こっちが見返されたみてぇだった。
……面白ぇじゃん。
「なぁ。セトラってのは、人の中身まで見えるもんなのか?」
頁を捲る音が、一拍だけ止まった。
「見えるのではない。聞こえるのだ」
「……聞こえる?」
「まだセトラの力も見ておらんうちから、随分と気にするの」
「記録のし甲斐、ありそうだからさ」
へらっと笑って、扉に向かう。
書庫を出ると、廊下はやけに静かだった。
自分の足音ばっか、変に響いた。