第33章 恋情増幅(R18)
「じゃあね、ばいばい。爆豪くん」
最後に少し名残惜しそうに、けれどいつもの優しい笑顔を浮かべて、ユカリは保健室を後にした。
パタパタと廊下を駆けていく小さな足音が遠ざかり、やがて完全に聞こえなくなる。
静まり返った保健室──
爆豪は再び、一人でベッドの上にどさりと仰向けに倒れ込んだ。
「……チッ」
誰もいない天井を睨みつけ、手の甲を乱暴に額へと押し当てながら思う。
情事は終わった。
肌を刺すような熱も、個性の残滓も、もうここには何も残っていない。
それなのに。
胸の奥の臓器だけが、さっきまでと変わらない音量で、うるさいほどに脈打ち続けていた。
手のひらを胸に当てると、骨の裏側が痛むほどに激しい鼓動が伝わってくる。
(なんだこれ……クソが……)
脳裏に浮かぶのは、つい先ほどまで自分の下で可愛く鳴いていた、淫らで愛おしいユカリの姿。
そして去り際に向けられた、いつも通りのなんてことない温かい笑顔。
その鮮烈なギャップが、爆豪の胸の奥をこれ以上ないほどにかき乱していた。
個性が切れたあの瞬間、彼女は涙を溜めて確かに俺を選び、この腕に縋りついてきた。
それは間違いなく、ユカリ自身の本心だった。
だが──同時に彼女がまだ、轟との間で激しく揺れていることも、爆豪は痛いほど分かっていた。
もし、この先。
ユカリが最終的に自分ではなく、轟を、あるいは他の誰かを選んだとしたら。
「……諦められるわけねぇだろ、バカが」
掠れた声が、夕闇の室内にぽつりと落ちた。
今日、初めて。
あの蕩けた顔を。
自分を求めたあの声を。
そして自分だけに向けられた、あの愛おしい笑顔を知ってしまったのだ。
男としてのプライドも、理性も、すべて彼女にめちゃくちゃにされた。
そんな自覚があるからこそ、どうしようもないほどの激情が爆豪の胸を焦がす。
誰を選ぼうが関係ねェ。
──奪い去ってでも、自分のものにするだけだ。
爆豪は、まだユカリの甘い匂いがかすかに残るシーツを強く握りしめた。
そして。
自身のうるさい心臓の音を聞きながら、どこまでも深く、彼女への底なしの執着に沈んでいくのだった。