第7章 Lesson6 掛け違えたボタン
聖28一族とは、約18世紀初頭に、純血の血筋と認定された28のイギリス人家系の総称である。当然の如くマルフォイ家はその筆頭であり、ウィーズリー家もその名を連ねていた。
「それの何が厄介なの?」
「さっき僕に話しかけてきたのが、グリーングラス家の次女であるアストリア・グリーングラスと言うんだが……」
「知ってるわ。確かスリザリン寮だったダフネ・グリーングラスの妹さんよね?」
「そうだ、その娘が困ったことに、純血主義の思想から離れ始めている」
それの何が悪いのか、レイ達は無言で顔を見合わせた。
「良い事じゃないか」
「……僕も悪いとは言わない、ただ今は時期が悪い」
「時期が悪い?」
「……先の戦争を経て、純血主義の立場は悪くなっている一方だ。それくらい君らだって分かっているだろう?」
確かにドラコの言う通りだった。聖28一族のうち、それまで純血主義を掲げていた家が反純血主義へと転じれば、純血主義を支えてきた一族の結束は揺らぐだろう。そうなれば、純血主義そのものが衰退していくことも避けられない。
しかし、今ドラコが危惧しているのは、単に純血の血筋が絶えていくことだけではなかった。問題は、戦時中、純血主義を掲げていた政府の方針が、敗戦によって一転したことにある。
昨日まで正当とされていた思想が、今日では批判の対象となる。そんな過渡期の混乱がいまだ収まらない中で、純血の象徴ともいえる聖28一族までもが反純血主義を唱え始めれば、魔法界の価値観はますます揺らぎ、社会の混乱に拍車がかかりかねないのだ。
その切っ掛けとなる小さなほころびを、先ほどの少女が握っているとしたら確かに頭の痛い話しだ。
「……とは言え、それを私たちに相談されてもな」
「だから僕も困っているんだ。仮にも僕はマルフォイ家当主。それまで純血主義だったグリーングラス家を、娘の考え方ひとつで『ハイ、そうですか』と見捨てるわけにもいかないからな」
「あら?恋人の為に純血主義の家を『ハイ、そうですか』って見捨てたのはどこの誰だったかしら?」
ジニーがくすくす笑いながら茶化すと、ドラコとレイは目も合わせられず真っ赤な顔を互いに背けた。