第8章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない Ⅱ**
2メートル近い朔を連れて入って大丈夫かな、と心配していたのが馬鹿みたいだった。
玄関だけでもめちゃくちゃ広い。
先生のマンションは、想像していたよりずっと広くて、綺麗だった。
「とりあえず、そのまま浴室直行ね」
「は、はい……っ。床、汚しちゃうかも」
「そんなこと気にしなくていいよ。それより早くシャワー浴びておいで」
先生は慣れた様子で、奥からバスタオルと着替えを持ってきた。
「僕のTシャツだけど、とりあえずこれ着て。制服は洗っとくから、脱いだら外置いといて」
「そんなこと、先生にさせられません……!」
「いいからいいから。ほら、早く」
背中を押され、半ば追い立てられるように浴室へ入った。
朔もとことこと私の後をついてきて、一緒に脱衣所へ入る。
ドアが閉まって、朔と二人きり。
改めて脱衣所を見回すと、大きな鏡のついた洗面台がすぐ目に入った。
内装は白とグレーで揃えられていて、まるで高級ホテルみたい。
先生は普段、高専にいることが多いからなのか。
綺麗すぎて、あまり生活感がない。
それでも、洗面台に置かれた歯ブラシも。
棚に並んだボトルも。
全部、先生のものなんだ。
そう思った途端、自分が今どこにいるのか、じわじわと実感が湧いてきた。
私、先生のマンションにいる!!
本当に来ちゃった。
わー、どうしよう!!
どこも先生の匂いがする!
キョロキョロと落ち着かない私を、朔が不思議そうに見ている。
「……ごめんごめん」
制服のボタンに手をかけ、ひとつずつボタンを外していく。
濡れたシャツを脱いで、鏡の前に立った。
「…………ぁ」
鎖骨の下から、胸の谷間あたりへ。
この前、伏黒くんにつけられた赤い跡が、まだいくつも残っている。
『早く……俺のこと好きになれよ』
あんなふうにまっすぐ私だけを求められたこと。
何度も思い出してしまう。
伏黒くんを選んだら。
そんなことまで、考えるようになってしまった。
でも、鏡の中に残ったそれを見つめているうちに、先生との約束が頭をよぎる。
もし、先生にこれを見られたら。
どう思うんだろう。
怒る?
呆れる?
それとも――。