第8章 【五条悟・伏黒恵】クロユリは君を離さない Ⅱ**
途方に暮れていると、先生がスマホを取り出した。
画面を何度か操作してから、何かを考えるように顎に手を当てている。
「んー……ここから高専戻るより、僕んちの方が近いな」
「……え?」
「僕のマンション。この辺からならそんな遠くないよ」
「先生の……マンション?」
「そ。シャワーくらい貸してあげる」
先生は何でもないことみたいに言うけど。
先生のマンション。
先生の部屋。
二人きり。
頭の中に並べた途端、心臓の音がやけに大きく聞こえた。
「……どうする?」
どうするって。
シャワーは浴びたい。
ものすごく浴びたい。
このままじゃ帰れないし。
それに、先生の部屋行ってみたい。
先生が普段どんなところで暮らしてるのか。
どんな部屋で、どんなふうに過ごしてるのか。
ちょっとだけ……ううん、気になりすぎる。
それから。
もしかしたら。
先生の部屋で二人きりになったら、また――。
「〜〜〜〜っ!」
何期待してるの、私。
伏黒くんの部屋で、あんなことしたばっかりなのに。
まだ伏黒くんにつけられた跡が残っている。
それなのに、先生の部屋に行きたいって思ってるなんて。
服の上からじゃ見えるはずもないのに、思わず胸元を隠すように押さえた。
「?」
「ひゃっ」
「何その反応」
「な、なんでもないです!」
先生が怪訝そうに私を覗き込む。
やめて。
今はあんまり見ないでほしい。
ただでさえ臭くて、汚れてるのに。
こんなこと考えてるのまでバレたら、もう本当に最悪だ。
「……い、行きますっ!」
「じゃ、決まりね」
そう言って、先生は足取り軽く歩き出した。
私はすぐに後を追えず、その場でもじもじしてしまう。
行くって決めたのに。
いざ先生のマンションへ向かうとなると、やっぱり緊張する。
『きゅぅきゅぅ』
「あ、待って、朔」
私が一人であれこれ考えてる間に、朔はさっさと先生の後をついていく。
……ちょっと。私より先に行かないでよぉ。