第6章 【五条悟】勿忘草の悪魔 Ⅲ**
僕は僕で任務が終われば、前よりずっと早く帰るようになった。
別に急ぐ必要なんてないのに。
玄関を開けた時、君が嬉しそうに走ってくるのを見たくて。
スマホを見る回数も増えた。
他愛もないメッセージ一つで、つい口元が緩んだ。
爪だって、前よりちゃんと整えるようになった。
君に触れる時、傷つけたくなかったから。
揶揄うと、頬を膨らませて拗ねて。
褒めると、尻尾を揺らしながら照れて。
そして僕は。
そんな君を見るたびに、何度も思った。
ああ。
本当に帰ってきたんだなって。
勿忘草を見た時、君は何も知らない顔で僕に聞いた。
『五条さんは、何を思い出しに来てるんですか?』
『……大事な子』って答えたら、少し寂しそうな顔をした。
たぶん、自分じゃない誰かのことだと思ったんだろうね。
ほんと、馬鹿だよね。
僕が忘れられなかった子も。
あの花を見るたびに思い出していた子も。
ずっと、ずっと大事だった子も。
全部、君なのに。
高専の廊下を走っていた君。
秤や憂太たちと笑っていた君。
僕を先生って呼んで、手を振っていた君。
呪いを祓うたび、平気なふりをして傷ついていた君。
勿忘草の花言葉を教えてくれた君。
二人きりになると、そっと僕の手を握ってきた君。
僕が好きだと言うたび、真っ赤になりながら「私も」って返してくれた君。
忘れたことなんて、一度もなかった。
忘れられるわけがなかった。
だって僕は。
一年前。
君が死ぬところを、見たんだから。
𓂃 勿忘草の悪魔 𓂃
── to be continued.