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【呪術廻戦/短編集R18】夜更けの花屋は恋を売る

第4章 【五条悟】勿忘草の悪魔**


𓂃 side:五条悟 𓂃



マンションのエントランスを抜けると、黒いセダンが路肩に停まっていた。

後部座席のドアを開けて乗り込むと、ひんやりとした冷房の空気が火照った身体を包み込んだ。



「待った?」

「お疲れ様です。忘れ物、ありました?」



運転席の伊地知が、ルームミラー越しに尋ねてくる。
僕はシートに深く背中を預け、長い足を組み直しながら適当に相槌を打った。



「うん、まあね」



忘れ物。


そうだね。
あやうく、僕自身の『理性』をあの部屋に置き忘れてくるところだった。

最後まで一線を越えずに部屋を出てきた自分を、誰か思い切り褒めてほしいくらいだ。


息を一つ吐き出すと、手に持っていた紙袋の中から、が買ってきたパンを一つ取り出した。
包みの中身を見て、ふっと口元が緩む。


(……僕の好みなんて、まだ一つも教えてないのに)


何十種類もあったはずなのに、が選んだのは、僕が昔から一番好きな甘いパンだった。

包みを開け、一口かじる。
甘い味が、少しだけささくれた神経を落ち着かせてくれた。



「そういえば……都市伝説の件は、大丈夫でしたか?」

「ああ、あれね……うまくやっておいたよ」

「そうですか。それならよかったです」



その悪魔は今、僕のベッドで丸まっているなんて伊地知が知ったら、卒倒するんだろうな。

――悪魔か。
角も、羽も、尻尾もある。
どう見たって、こっちが祓う側の存在なのに。

なのに、あの子は僕の腕の中で、少しも疑わずにそんなことを言った。



『五条さんは……痛いこと、しないって……わかるからぁっ……』



あれは、無意識で言ったのだろうか。
それなら余計に厄介だ。


遠ざかっていく自分のマンションの最上階を見上げながら、もう一度、パンをかじる。







「……懲りないな、僕も」
















𓂃 勿忘草の悪魔 𓂃

── to be continued.
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