第3章 【伏黒恵】君に響くカンパニュラ**
『……は?』
『僕からプレゼント♡』
『いや、いりません。ていうか、何渡してんすか』
突き返そうとしたが、五条先生は楽しそうにそれを俺の手に押し戻してくる。
『えー? デートのあと、何があるか分かんないじゃん』
『ないです。ただ寿司食いに行くだけです』
『またまたぁ。本当はちょっと期待してるんでしょ?』
『だから、いりませんって。……つーか、場所考えてください』
真っ昼間から堂々とそんなものを握らされて、本気で捨ててやろうかと思った。
でも、結局捨てられなかった。
別に、期待していたわけじゃない。
ただ、万が一とか。
そういうくだらない言い訳を、頭のどこかでしていた気がする。
気づけばそれをカバンの奥に突っ込んでいて。
家に帰ってからも捨てられないまま、キャビネットの奥に押し込んでいた。
(……まさか、本当にと使う日が来るなんて)
今日ばかりは、あのふざけた教師に感謝するしかない。
俺の下で、まだ力の抜けたままのが目に入る。
(……も、初めてなんだよな)
俺だって経験はない。
以外と、こんなことをしたいと思ったこともなかった。
緊張しているのか、指先が情けないくらい震えている。
早くを抱きたいのに。
「……っ、クソ、」
指に変な力が入って袋が滑り、さっきから全然破れない。
の前でこんな手こずっている格好悪いところ、絶対に見せたくないのに。
すると、俺の手を小さな手がそっと包み込んだ。
見れば、ベッドに横たわっていたはずのが上体を起こしている。
は俺の手から銀色の袋をそっと抜き取ると、代わりに封を切った。
よく見れば、その指は俺と同じように微かに震えている。