• テキストサイズ

【H×H イルミ】黒と白のアリア

第17章 探究者達


エレオノーラが従者と部屋を出ていくと、静寂が戻った。
イルミは小さく息を吐く。


午後にはリハーサルが控えている。
午前中のうちには第三幕終曲へ手を付けておきたい。
戦争を終え、人々が再び日常へ帰っていく最後の合唱。
どうしても妥協できない曲だ。


だが、瞼は重い。

イルミはベッドへ身を横たえる。
枕へ頭を預けると身体が沈み込んでいく。

少し寝よう――午後のためにも。その後からでもまだ巻き返せる。



窓の外では鳥の囀りが遠ざかり、その代わりに石畳を馬車が走る音が聞こえ始める。
車輪が石を叩く規則的な響き。店を開ける音。商人たちの呼び声。
王都の朝が、ゆっくりと動き始めていた。


「…………」

イルミの瞼がわずかに震える。

馬車のリズム。人々の足音。
それらが頭の奥で一つの拍へ重なった。

(ここは)

アルトが一歩前へ出る。
その終わりをクラリネットが受け、弦が静かに和音を重ねる。

(そこだ)

合唱が息を吸う。
その瞬間、フレーズが堰を切ったように流れ始めた。


「……寝るんだから起こすなよ」

身体は眠りを欲している。
だけど、音楽がそれを待たずにイルミに呼びかける。

「……今じゃないだろ」

身体の悲鳴を無視して脳が勝手に動き始めてしまう。

次のフレーズが鳴る。
その先も止まらない。

今書かなければこの音は二度と戻ってこない。

「最悪」

諦めるように呟く。
/ 200ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp