第16章 喧騒の交差点
「曲を改訂する」
「改訂ですか?」
「技術的に弾けない。練習もできない。なら仕様を変えるしかないだろ」
あまりにも当然のような口調だった。
「ゾルディック先生、しかし今からでは……」
「大枠は残す。省ける音は全て削る。その上で運指を整理してテンポも落とす」
「それなら確かに……」
コンサートマスターは考え込む。
「ですが、第ニ幕までしか楽譜が回っておりません。第三幕以降はどうされるのでしょうか」
「今書いてる」
イルミは平然と答えた。
「残り十五曲くらいだから、もうすぐ終わる」
ウイングは思わず黙り込んだ。
十五曲。
しかも歌曲ではない。
重唱、合唱、管弦楽を含むオペラの楽曲だ。
普通の作曲家なら数ヶ月単位で取り組む量である。
だがイルミは既に半分以上を書き上げていた。だからこそ誰も、その言葉自体は疑わない。
問題は別だった。
最近のイルミは演奏を止めては細かな指摘を繰り返している。
耳は冴えて頭も回っている。
だから余計に危うい。
「ということだから、俺はアパートへ戻る」
イルミは話を打ち切った。
「コンマス。団員に全曲簡略化すると伝えて」
「承知しました。では私は団員達のところへ参ります」
コンサートマスターは一礼して去っていき、イルミもそれに続く。