第16章 喧騒の交差点
リハーサル終了後。
エレオノーラは壁際で話し込む三人の方へ歩み寄る。
「殿下! お疲れ様です」
コンサートマスターとウイングが一礼する。
イルミは一拍遅れて視線を向ける。どうやらまた何か考え事をしていたらしい。
「一体どういう状況ですの?」
問いかけに、三人は一瞬だけ顔を見合わせた。
やがてコンサートマスターが口を開く。
「本日はお越しいただいたにも関わらず申し訳ございません」
「私は理由を聞いているのです」
少し強い口調に、コンサートマスターは困ったように視線を落とす。
代わりにウイングが答えた。
「オーケストラの音が揃わないのです」
「申し訳ありません」
再びコンサートマスターが頭を下げる。
「団員達も手を抜いている訳ではないのですが、まとまった練習時間が取れていない者が多く……」
「そうなのね。困りますわね」
「戦後の復旧作業や各種手続きに追われておりますので」
エレオノーラは一瞬止まる。
「それでしたら、宮廷に出入りする貴族達へ申し伝えますわ。宮廷楽団の者はオーケストラを優先させるようにと」
しかしウイングもコンサートマスターも表情を変えなかった。
「殿下」
コンサートマスターが静かに首を振る。
「団員達もこのオペラへ参加できることは大変光栄に思っております。しかし、人命に関わる仕事を放ってこちらへ参加するのは、やはり反感を買うかと」
「身寄りを失った親族を養っている者もおります。今の街には仕事も金も溢れている。最悪、楽団を辞めてそちらへ専念する者も出るでしょう」
「既に庶民の間では、なぜ今オペラに人と金を使うのかという声も上がっております」
ウイングも続ける。
「無理を通してこれ以上反感を買うのは危険です」
「そう……」
エレオノーラは腕を組んだ。
「今は庶民も力をつけてきていますものね」
ふと遠い国の話を思い出す。
「どこかの大国のように、ギロチンなんてことになったら流石に笑えないわ」
その言葉に誰も笑わなかった。
大国が市民革命でひっくり返ったことは、遠く離れたグランツェ王国まで届いている。
王侯貴族が絶対ではない時代が始まりつつあった。
「では、どうしたらいいのです?」
その時、ずっと黙っていたイルミが口を開く。