第11章 Second Theme(第二主題)
向かいへ座ったライネルは、手袋を外しながら息をつく。
大きな手だった。
節がしっかりしていて、日に焼けている。
ペンばかり握ってきた貴族の手ではない。
ライネルは侍女が注いだ葡萄酒を軽く揺らしながら、ふと口を開いた。
「海は好き?」
「……え?」
あまりにも自然に聞かれ、ニナは少し目を瞬かせた。
「見たことがないなら、想像でもいい」
「……本でしか読んだことがなくて。でも、広い場所なんですよね」
「広いな。何日進んでも陸が見えないこともある」
ライネルは淡く笑った。
「初めて船へ乗る人間は、大抵二日で後悔する」
「そ、そんなにですか……?」
「嵐の夜なんか特にね。船ごと軋む。食器は飛ぶし、部下は吐くし、最悪の場合は積荷ごと海へ消える」
さらりと言う。
だがその語り方には、誇張が感じられなかった。実際に見てきたままを話しているのだとわかる。
運ばれてきた料理は香草を使った白身魚だった。
ニナが慌てて外側のナイフへ手を伸ばした時、ライネルは先に給仕へ合図を送る。
「彼女の分は小さく切ってあげてくれ」
「かしこまりました」
「あ……そんな。すみません」
「気にしなくていい。話しながらだと食べにくいだろう」
ライネルはそう言ってから、ニナの方へ視線を戻す。
「慣れない席だろう。今日は食べることだけ考えてくれればいい」
恥をかかせないように配慮してくれているのだ、ということはわかる。
ただ、困る前に先回りされることに、ニナは少し戸惑ってしまう。
ゾルディック家では、出来ないなら出来るまでやるのが当然だった。