第24章 グラーヴェに堕ちゆく【浴】
「家入さん、そこには何が……?」
「詳しくは分からないが……神道系の祝詞だな。書いてある内容から察するに、自分の魂を保護するものだろう。それと……」
家入が包帯をズラし、肌に直接 書かれた文字を確認する。
「この祝詞を補強するための文字だ」
七海は言葉を失くした。そこには、肌の色が見えないほど、【頑強】や【保全】、【修復】をはじめとした文字が隙間なく書き込まれている。
「全くお前は……これのどこが凡庸なんだ」
浅く呼吸する星良に小さく呟き、家入は彼女の衿を整え、「七海」と視線を向ける。
「外傷はない。損傷しているのは星良の魂の方だ。【反転術式】の対象外――できることはやるが……」
「……あとは星良次第、ですか……」
七海は星良へ視線を戻した。傍らでは灰原や猪野も心配そうに星良を見ている。
「そんな顔するな。こいつは あたしの弟子だぞ。自分の命を粗末にするような戦いはしない。だからこそ、あれだけ自分に術式を掛けた。そうだろ?」
肌にびっしりと書かれた文字を思い出し、七海は「はい」と頷いた。
「あとは呼びかけてやれ。ちゃんと“ここ”に戻って来られるようにな。お前の声が一番 届くだろ」
励ますように家入に肩を叩かれ、ようやくわずかに緊張が解ける。
――今、自分にできることをやろう。
それがどれだけ些細なことでも、彼女を支えることができるなら。
七海は星良の傍らに立つ。苦痛に喘ぐ彼女の前髪に触れると、その唇が微かに動いた。
「……星也……」
耳に届くか届かないかというほど掠れた呟き。
その言葉の重さを感じながら、七海は星良の手を握った。