第6章 悪魔
「いえいえ・・・お嬢さん。わたくしは奇術師ではありません・・・悪魔です」
わざとらしい口調で言うと男は少女を助け起こし、部屋にひとつきりの椅子に誘いました。そして、これもまた大仰な手つきで、ティーカップに紅茶を注いでみせたのです。
ふわりと、良質の茶葉の良い香りがあたりに漂いました。
カップをそっと、少女の前に置くと、男は一言、付け加えたのです。
「それも、最後の・・・ね」
そこに少女はどこか淋しげな色を感じました。
「悪魔・・・さん?
それも、最後の、だなんて・・・」
もちろん、世間知らずとは言え、少女も『悪魔』が何を意味するのかは知っていました。もし目の前の男が、彼女の知っているような悪魔だとしたら、それは恐ろしいことかもしれない、そう思ってもいました。
しかし、目の前にいる男性からは、何やらちっとも怖い感じは伝わってきませんでした。
男はことり、とティーポットを机の上に置くと、サッと再びカーテンを開きました。
外は未だに雨が降り続いています。
その光景を眺めながら、ふと言いました。
先程までの慇懃な様子は、悪魔の本来ではなかったみたいです。
だいぶ砕けた言葉遣いになっていました。
「ま、俺以外は皆、死んじまったんでね」
振り向いてひょいと肩をすくめてみせる。
「今どき、悪魔なんざ、流行らねえだよな」
そんなふうに言って、自嘲気味に笑いました。
少女はお茶をまた一口飲んで、そんな悪魔に向かって小首をかしげて尋ねました。
「死んでしまった・・・それはどうしてですか?」
それは本当に、純粋な疑問だったのでしょう。本当は応えるつもりなんてなかった悪魔でしたが、少女の純粋さにほだされたのかもしれません。小さく笑うと、ため息混じりにこう答えたのです。
「人間と共に我ら悪魔族が生まれて、早数万年・・・
俺たちゃ人の夢と引き換えにその魂をいただくっていう『契約』を生業にしてきたんだ・・・ま、要は魂を食い物にしてきたわけだ」
「まあ・・・」
魂を食い物にする、と聞いて、少女の目が若干怯えの色を見せたことに悪魔は気づいていました。
「びびったかい?」
「えっと・・・ちょっと」
それはひどく正直な回答でした。
まあ、いいやと思ったのか、悪魔はまたゆっくりと話し続けました。