第6章 悪魔
だからどうぞ、と。
少女に促され、男はやっとのことで立ち上がると、部屋にのそりと入り込んできました。そして、暫く歩くと、また、ぺたりと座り込んでしまったのです。
ついでに、大きな音でぐぅ〜とお腹がなっていました。
「まあ!お腹が空いてらっしゃるのね。
お待ち下さいな、今お茶をお淹れしますから」
そう言って、次の間に行こうとするのですが、ゲホゲホと咳き込んで、しゃがみ込んでしまいました。男がちらとベッドテーブルに目をやると、そこにはガラスの水差しと薬の袋が置かれているのが分かりました。
また、よく見ると少女の顔は血の気がなく青ざめており、肌は病的なまでに白かったのです。男が鼻を鳴らすと、そこに死の匂いが漂っているのが分かりました。
「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん・・・」
「ゲホゲホ・・・あ・・・すいません・・・今、お茶を・・・ゲホっ!」
なおも立ち上がろうとする娘でしたが、体が思うように動かないようでした。すぐにまた、しゃがみ込んでしまったのです。
「お嬢ちゃんは、俺に茶を淹れてくれようってわけだな?それは願いか?」
少女は、はて、妙なことを聞くなと思いながら、小さく頷きました。
「ええ、・・・ゲホっ・・・
淹れて差し上げられたらと思うのですが
・・・お茶菓子もありますの」
その言葉を聞くや、キラと青く男の目が光りました。
ほんのささやかですが、少女の願いが男に奇妙な力を与えたようでした。
「お陰で動けるようになったぜ・・・そのままでいいぜ?
お嬢さん・・・どれ、お茶は俺が・・・」
そう言って、先程まで動くのもやっとな感じだった男は、すと立ち上がると胸ポケットから真紅のハンカチを取り出して、部屋にあった丸い木のテーブルの上にサッと広げました。
「まあ!」
その様子に、少女は咳をするのも忘れて見入ってしまいました。なにせ、広げたハンカチはまたたく間に大きくなりテーブルクロスに、そしてその上には白くてきれいな模様のついた陶器のティーセットが現れたのです。
「貴方は奇術師でらっしゃったのですね」
男はまるで数千年前のおとぎ話に出てくる貴族のような慇懃な礼をすると、にこりと笑って首を振りました。