第6章 悪魔
☆☆☆
【最後の悪魔】
それは雨がさらさらと降るある夜のお話。
少女がベッドの上でふと気づくと、カーテンの向こう、ベランダに人影がありました。
おかしいわ・・・ここは地上から45階もの高さ、なのに・・・。
泥棒だということは考えにくいです。下から登ってくることなんてできませんし、ましてや空から降ってくるなんてことは考えられません。お隣から?いや・・・この建物のこのフロアには、少女の住む部屋のみがあるのですから、それもありえません。
その影は、座り込んでいるように見えました。
途方に暮れているようにも。
少女は、ちょっと興味が出ました。重い体を引きずるように、ベッドから降りると、カーテンを開き、窓を開けました。
男がちらりとガラスに目をやると、そこには、くたびれた感じの白髪の男性が座り込んでいるのが写りました。
もう大分、年なのでしょう。顔はシワだらけです。そして、服装はと言えば、黒のスーツにゆるくだらしなく結ばれたネクタイもまた黒色で、それはまるで大分昔の人の葬礼の際の着物のようでもありました。
「もし・・・どうかなさいましたか?」
透き通るような声で少女は尋ねました。男性が顔を上げると、銀の眼鏡が部屋の明かりに照らされてキラリと少し光りました。
その顔を見ても見覚えがないものだから、少女は男性に更に尋ねることにしました。
「もし・・・私は、あなたのお顔を忘れてしまったみたいです・・・。思い出せませんの」
男は薄く目を開けると、小さく答えました。
「なあに・・・そりゃそうさ。あんたとあたしゃ今ここで初めて出会ったんだから」
「まあ、そうでしたのね!」
少女はびっくりしましたが、ふと気づきました。
外は雨。
そして、男がいるベランダにはビュービューと雨が吹き込んでいるのです。
男の方を見て、部屋を見て、また男の方を見て、少女は決心して言いました。
「もし、お嫌でなければこちらにいらっしゃいませんか?そんなところにいたら凍えてしまいます」
「いいんですかい?こんな得体のしれねえの部屋に上げちまって」
男は言いました。
でも少女は首を振りました。
「だって、窓に鍵などかかっていませんでした。
貴方がなにか悪いことをなさろうというのなら、
とうの昔にされていたでしょうから」