第27章 【脹相】へる日々
脹相は八重の部屋がどこであるか知らないし、訪れたこともなかった。
というのも、最近はいつ八重が仕事をしようが脹相は口を出さないようにしていたためか、八重はほとんど部屋にいないようだった。
ほぼ着替えをする為だけに戻っているくらいだろう。
それでも迷わず八重の部屋に向かえるのは弱々しくとも“繋がり”で気配が追えるからだろう。
そうして難なく辿り着いた八重の部屋の前。
部屋の前まで来ても感情は読み取れない。
落ち着いていることだけがわかる。
(しかし、部屋まで来てはみたもののどうするべきか…)
虎杖には会わない方がいいと言われている。
だから部屋の前に差し入れを置こうと思ったが、ただ置いただけでは気付かないのではないか?という疑問が浮かんだ。
では、一声かけるくらいはいいのか、それともそれすら避けた方がいいのか。
“繋がり”は今は随分絞られていてこちら側から呼びかけても通じているのかもわからない。
そんなことを考えて扉の前で佇むこと数分。
〝脹相?〟
聞こえないのに頭の中に響く八重の声。
“繋がり”は絞られてても声は届くし、何なら気配も察知されていた。
そんなこととは露知らず部屋の前に佇んでいたことを八重に気取られていたのが少し気恥ずかしくてすぐに返答できずにいた。
〝……あの、どうしましたか?〟
八重の声を聞かなくなって一日も経っていないというのに、その声を聞けば腹の底が小刻みに震えるようだった。
それでも何か話さなくてはとハッとして〝…俺はよくわからないが、こういう時は身体を温めるといいらしい。置いておくから必要なら使え〟とだけ“繋がり”で伝えてその場を離れた。
(少し一方的過ぎたか…?)
(いや、でもいつまでもあそこに留まれば八重が荷物を受け取れない)
(あのくらいでいいのだろう。あとは体調が戻った後にでも話せばいい)
自分の行動を省みながら未だに片付けが残っている厨房へと向かう。
その途中、僅かに繋がった“繋がり”を通して、八重の大きな嬉しさの感情が流れてくるのを感じた。
どうやら差し入れは喜んでもらえたようだ。
しかも細く繋がった“繋がり”でもわかるほど明確に。
嬉しそうに微笑む八重が目に浮かぶ。
脹相は小さく拳を握っていた。